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■会員の動向

 

◆ 展覧会の紹介
◇金澤律 版画コラージュ展
開催期日:2001.6.14〜6.19
開催場所:コート・ギャラリー国立

金澤律子
1979 東海大学教養学部芸術学科デザイン学課程卒業
1997 東海大学大学院芸術学研究科造型芸術専攻修了
2001 東京芸術大学大学院美術研究科芸術学専攻[造形理論色彩学]修了
    1995よりシルクスクリーン、モノタイプの制作を始め、グループ展を開催
現在  東海大学教養学部芸術学科デザイン学非常勤講師・専門学校東洋美術学校講師

レポーター:粟野由美(東京造形大学メディア造形専攻講師)
金澤律子さんは色の原基性について研究をなさっており、J.W.V.ゲーテが『色彩論・教示編』で述べた「色彩を帯びた影」についても深く洞察しておられます。今回の個展は、油彩や版画などの技法を複合させた、いくつかのシリーズから為る大小27点の絵画作品で構成され、初夏のさわやかな光に満ちて心地よい空間でした。青と赤、青と黄、青と金、赤と金、青と銀…一枚の画面にふたつの色を置き、その間をさ迷うような筆の痕跡がみられます。
いずれも根底に流れるのは「光があってこそ陰影が存在する現象に焦点をあて、そのクローズアップした[光と陰影]の心象を色彩で表現(作者談)」したいという想いでしょう。常に光とともにある陰りや影を描き出した画面は、形を離れて空間に放たれた色彩の気ままさをもって見る者を戸惑わせながら、眺めるうちに記憶の中にある何かと重ね合わせようとして、そこに具象を見出そうとしている自分に気づかせてくれます。金澤さんが研究に応用したロールシャッハ・テストを見るような気分になり、心象の映しとしての絵画の強度や、眼の快楽〜視ることの安定した状態について再考する機会を与えてくれる展覧会でした。

◇稲垣行一郎 65 履歴‐宮城大学退職記念
開催期日:2001.6.13〜6.18
開催場所:ギャラリー五番街(仙台)

稲垣行一郎 
1959 多摩美術大学デザイン科卒業 
現在   宮城大学事業構想学部デザイン情報学科特任教授。博士(教育心理学)学位
サントリー宣伝部、プレジデント社「プレジデント」、アートディレクター。日本印刷新聞社「クリエイター」編集長。ロイヤルホスト、フジタ工業、西友ストア、リンガーハット、三井ハイテック、三洋電機等多くの企業CIの実績を持つ。日本宣伝美術会・日宣美賞、毎日デザイン特別賞、朝日広告賞、西友のプライベートブランドのパッケージに対して、日本印刷工業会特別賞を受賞。
レポーター:庄子晃子  1943北九州市生まれ 1968東北大学大学院修士課程文学研究科美術史学
            専攻修了 1999博士(学術、千葉大学)1999国井喜太郎産業工芸賞受賞
            1999日本デザイン学会賞受賞 現在 東北工業大学工業意匠学科教授



視覚造形文化の基礎と伝統を築いた稲垣行一郎先生
   ―宮城大学退職記念の展覧会を拝見して― 

基礎造形学会会長の稲垣行一郎先生の宮城大学退職を記念する展覧会が、2001年6月13日(水)から6月18日(月)にかけて開催されました。会場のギャラリー五番街は、L字型のプランと細い廊下状の空間からなるギャラリーで、一階の展示空間は、歩道からガラス越しに中を眺めることができるようになっています。そこには、誰でもどこかで見かけたことのあるCI:「Royal Host」「Ringer Hut」、「Becker's」「SEIYU」「スターラント」「ナインズ」など、先生の著明な作品の数々が展示されているのが見えます。誘われるままに中に入ると、この展示場には中二階に踊り場のような展示空間が附属していて、観覧者はさらに期待をもって階段を上ることになります。するとそこには、稲垣先生が1956年に多摩美術大学の学生であったときに日宣美賞を受賞されて一躍脚光を浴びた作品「ポスター:夜のマルグリット」をはじめ、東京オリンピックの地図(ニューヨク近代美術館パーマネントコレクション)やシンボルマーク(指名デザイナー)、そしてCI:「SANYO」「FUJITA」「ゼネラル」など、さらに西友のロゴマークを表紙にあしらった『西友CIベーシックマニュアル』や著作『グラフィックデザイン講座』や新聞広告「トリスウィスキー」など、さらには菓子類やティッシュのパッケージデザインなどが展示され、また写真によって紹介されています。

このように会場を一巡しますと、余りにもよくなじんで私たちの日常生活の一部となっているそれらのすべてが稲垣先生のデザインになることを知って、改めて驚きの念に打たれます。先生のお仕事は、ポスターもロゴも、広告紙面も書籍の編集デザインも、そしてパッケージデザインも、どの作品も品位と緊張感に満ちた色と形のレイアウト空間を構成しており、明解なイメージが伝わって来ます。自然でみずみずしい感性と鋭い明晰な知性が結びついて、公平で妥当なバランスを保っているように感じられます。先生の諸作品から受けるあたたかさ、穏やかさ、清潔さ、楽しさは、私たちの日常生活が快適で明るい希望に満ちたものであることを訴えかけているようです。

この展覧会は、先生が宮城大学を退職された65歳のデザイン履歴を振り返る企画でした。戦後の日本の復興と高度成長期とこれまでをヴィジュアルデザインの面でリードし支えて来られた先生の圧倒的な業績の数々に接して感銘を受けました。展覧会場は、若い学生たちで溢れていました。先生のメッセージは、次の時代をになう若者たちにも受け継がれていくことでしょう。このようにハイレベルの展覧会を仙台で開催していただいたことを感謝したいと思います。デザイン活動に定年はありません。21世紀における先生の益々の御活躍をお祈り申し上げます。
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