■令和2年の年頭に思うこと… |
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会長:村松俊夫
明けましておめでとうございます。
会員各位にはそれぞれの目標に向けて、この一年の計を立てられたことと存じます。
本年が皆様にとって、また学会にとって更なる飛躍の年となることを祈願しております。
さて、最近巷では、AI、IoT、Society5.0 など、数理・情報・プログラミングに関する話題に満ち溢れています。現代社会、あるいはこれからの社会には、このデジタル技術を基にした社会インフラが不可欠になっています。また、周囲を取り巻くインターネットの環境からも私たちは逃れることができません。「コンピュータゲームから抜けられない」「常にスマホを身近においてなければ不安で仕方がない」。そんな若者が増えています。
これは世の中の趨勢で致し方ないものと思います。しかしながら、考えてみると、私たちが生活しているのは現実の空間です。私たち自身は物質をよりどころとした生命体であり、朝ベッドから起き、パンを食べ、ジュースを飲み、学校や職場へ出かけ、勉強や仕事をし、帰宅後シャワーを浴び、夕食を取って就寝する。結局のところ、この人間としての「意識を持つからだ」を維持するには、食料という物質を摂取し、睡眠という休息を挟まなければ、命を保つことはできません。いくら電脳空間が発展しても、それを食料の代わりや睡眠の代用にすることはできません。残念ながら私たちは、常に“身体”に寄り添って生きていかざるを得ません。この“身体性”こそが、生物の生物たるゆえんと考えられます。
ここで思い出されるのが、映画「マトリックス」です。目覚めているのにいつも夢を見ているような感覚の主人公ネオは、「あなたが生きているこの世界は、コンピュータによって作られた仮想現実だ」と告げられ、このまま仮想現実で生きるか、現実の世界で目覚めるかの選択を迫られます。彼が現実の世界で目覚めることを選択すると、次の瞬間、培養槽のようなカプセルの中で身動きもできない状態であることに気づきます。現実の世界はコンピュータが人間社会を支配し、大部分の人間は培養カプセルの中で夢を見せられ、身体が作り出す微細電流はコンピュータの電力源として利用されていました。近未来を描いたこの名作の世界は、あながち絵空事ではなく、すぐ目の前にやってきているような気がします。
ところで、このMatrixという単語は「基盤」・「基質」と訳されることが多いようです。本学会が会名に冠する「基礎」と相通ずるものがありますが、本来この言葉は「子宮」を意味するラテン語からの派生語で、“生み出す機能”や、その“形状”に着目して使われることもあるそうです。本学会は、その理念からすれば、ただ夢を見ているだけの培養槽ではなく、新たな創造を生み出す「子宮」のような存在になっていければと思います。そして、そこから現実世界へ飛び出す多くのネオが生まれればと願います。
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